【歴史探訪】-幻に終わった野毛の鉄道、「桜船鉄道線」を追う-

野毛に残る線路用地跡

桜木町駅を降り、みなとみらいとは反対の方向へ進む地下道「のげちかみち」を進みぬくと、そこには野毛の繁華街が広がっています。

野毛には500店もの飲食店がひしめき合い、夕方から夜にかけてさまざまな酔客が、通りをにぎわせます。

その野毛一帯を地図で見てみますと、大岡川を一つ隔てた福富町とは様子が少し違う、特殊な区画になっている一帯があります。

 
福富町のほうは、吉田町界わいを除くとわりと碁盤の目の区画になっているのに対し、野毛のほうは碁盤の目をぶち抜くような、円弧状の区画があります。

しかも、図中の円弧状の道路をペンでなぞってみますと、何やら

  • 大きな道路を作ろうという計画があって、用地を確保していた
  • 人工の運河があったが、暗渠工事で地中に入れてしまった

ような印象を受けます。

Google map – 赤線加筆

謎の区画の由来について

この道路区画について、調べてみました。

『「地図」で探る横浜の鉄道 横濱都市発展記念館・編 2011年』にこのことに関する詳しい記述がありました。まとめてみますと

  • 桜木町駅から大船駅まで鉄道を延伸させる計画は、明治のころから存在した。
  • 大正時代には具体的なルートが決まっていた

大正6年5月14日の横浜貿易新報にも、そのことが掲載されていたようです。

ルートは桜木町から現在の関内・石川町方向には進まずに、大岡川に沿うように90度右に曲がるコースをとり、大正時代には開通していた湘南電気鉄道(今の京浜急行)の黄金町駅付近に合流させる予定があったそうです。

ところが、1923年9月1日に発生した関東大震災で、すべての計画が大幅見直しになってしまい、ついには計画自体がなくなってしまいました。

ただ、大正時代1925年の「土地台帳附属地図 野毛町、宮川町」には、桜船鉄道用地として、黒く囲んだところにあたる部分が鉄道用地として収容されたままになっていたそうです。

一方で鉄道の計画に関する情報は世間一般にも知れ渡っていたようでした。

「大正時代の歌川広重」という評判があり「大正広重」と呼ばれていた絵師、吉田初三郎氏の日本鳥瞰図の一つに、桜木町から黄金町に鉄道が敷かれている鳥瞰図が描かれています。

吉田初三郎「湘南電鉄沿線名所図絵」復刻版-横浜都市発展記念館蔵

これは昭和5年に初出版された図絵の復刻版ですが、吉田初三郎氏が入手した情報を元に忠実に再現したものであると想像できます。

桜木町から大船に敷設するという案はなくなっていて、湘南電気鉄道(現在の京浜急行)に繋げるという案が、世間一般に知れ渡っていたようですね。

いずれにせよこの案も、関東大震災後の混乱と復旧に際し、なくなっています。

鉄道用地の現在の様子

現在の鉄道敷設跡地はどのようになっているでしょうか。付近を少しばかり歩いてみました。

写真中の真ん中にある白いビルは、地図上ではまさにこのあたりにあります。

 
道路に挟まれた区画が、両隣りの区画と比べると明らかに狭く、おまけに挟んでいる道路が円弧を描いていて、明らかに過去の土地計画を引きずっているようです。

さらにこの円弧になっている通りを両方とも歩いてみました。

野毛本通りから日ノ出町側を見てみました。

地図上ではこのあたりです。

 
このようにずっと日ノ出町のほうまで歩いてみましたが、やはり異常に幅の狭い区画はずっと続いていました。

残念ながら、鉄道用地であったことを示す境界標、戦前の用地なので旧工部省の境界標は見つかりませんでした。

さすがに戦後70年もたち、途中バブルや地上げの時代も経てますので、いろんな所がマンションになっていたり、駐車場になっていたりして、昔の境界標は見つかりません。

おわりに

前々から、なんで野毛の一角にはとても幅の狭い区画が円弧状にあるのかなと、不思議に思ってみました。今回は何冊かの文献と復刻版の図絵で、その不思議な区画が示す意味を調べることができました。

普段何気なく通っている街角にも、少し掘り下げると色々と面白いものが見つかります。

みなさんのお住まいやお勤め先の近くで、このような少し変わった場所などありましたら、ご連絡くださいませ。


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この記事の著者

佐野 文彦

佐野 文彦博士

滋賀県で生まれ、学生時代を福井で過ごす。社会人になってからは、横浜を生活拠点としている。本業の傍ら、ジャズやゴスペル・ファンクなどでサックス演奏や、コーラスグループでの合唱活動も行っている。横浜が自分の歌や演奏で満ち溢れるといいなどと、大風呂敷な夢を持ち歩いている。彷徨うような街歩きが大好き。

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