関内新聞

今夏開催「ヨコハマトリエンナーレ2014」~作品が創り上げる1冊の本

8月1日から、「ヨコハマトリエンナーレ2014 華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」が開催される。横浜トリエンナーレは、3年に1度行われる現代アートの国際展。2001年に第1回展を開催、その後回を重ね、2011年の第4回展は33万人を動員。今年で5回目を迎える、国内外から注目を集めるアートイベントだ。

そんな「ヨコハマトリンナーレ2014」の魅力、楽しみ方を知るべく、横浜市文化観光局 瀬戸さん、横浜トリエンナーレ組織委員会事務局 武井さんにお話を伺った。

アートを通したまちづくり

-そもそもなぜ、横浜トリエンナーレを開催することに?

瀬戸:1997年に外務省が国際美術展の定期開催方針を発表しました。その実施都市として、選ばれたのが横浜でした。文化芸術を通して横浜という都市の魅力を高めていきたい、という想いが開催のきっかけでした。
2001年に第1回展を開催し、2004年には、横浜市は創造都市政策を策定しました。横浜都心臨海部に残る歴史的建造物を活用して、アートを通してまちを盛り上げる、まちの魅力を発信するという政策です。今では、横浜トリエンナーレはナショナルプロジェクトでもあり、創造都市政策のリーディングプロジェクト、という位置づけでもあるんです。

左:瀬戸さん/右:武井さん

 
-アートを通したまちづくりなんですね。では、これまでに4回実施したことで、横浜のまちに何か変化はあったんですか?

瀬戸:そうですね。会場が第1回は赤レンガ倉庫や山下ふ頭、今回も会場になっている新港ピアの倉庫施設だったりと、普段あまり訪れにくく、もともとはアートスペースではなかったところでした。それが、横浜トリエンナーレの会場として使用したことによって、雰囲気が変わり、人が訪れるところになってきたと感じています。
また、新港ピアはアーティスト・イン・レジデンスといって、創作活動の拠点になりました。アーティストやクリエイターが横浜に集う雰囲気ができてきたとも感じています。

-場所が変化したように、もともと横浜に住んでいた人にも変化があったのでしょうか。

瀬戸:横浜はアートにおいては、先駆的に活動して、歴史を重ねてきました。なので、そういった都市に暮らしているとか、働いている、というところの魅力はみなさんに感じていただけているのではないでしょうか。例えば、「横浜に住んでいるなんて素敵。」と言われたとき、その素敵の一要素として(横浜トリエンナーレが)貢献できているのでは、と思っています。

タイトルに込められたメッセージ「大切な忘れもの」

-今回のタイトル「華氏(かし)451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」は、どんな内容なのでしょう。

武井:1953年にレイ・ブラッドベリという小説家が書いた「華氏451度」という作品に由来しているんです。小説の中の世界では、本を読むことも、持つことも禁止されています。そこに、本をまるごと記憶する“本になる人々”が登場するんです。
“本になる人々”は、本を持っていてはいけない、本と関わってはいけない時代に、本を読んでまるごと記憶しているわけなので、その世界のルールから見たら、世界の外にいる、つまり、存在自体を忘れさられた人々、忘却された人々、というわけです。しかし、その忘却された人々が、実は非常に重要なものを記憶しています。

現代でいうと、例えば、インターネットで検索して得られる情報は、ごく一部の情報ですよね。検索しても引っかからない情報が膨大にあって、その情報は、本当は存在しているのに、情報の海の中では存在しないことになってしまいます。そこには大切な何かがあるのではないか、というのが今回の大きなテーマです。

瀬戸:アーティスティック・ディレクターを務める森村泰昌さんは「忘れ去られたことに、大事なことがあるのではないか」というメッセージを展覧会タイトルに込め、呼びかけ、問いかけているんです。「大切な忘れもの」ですね。

武井:今回の展示では、「忘却」をテーマにいろいろな作家さんに着目しています。例えば、検索されることを拒否している作家さん。この方は、写真でも作品をアップしないので、情報にはあがってきません。つまり、検索の中ではいないことになっているわけなんですよね。

「ヨコハマトリエンナーレ2014」の楽しみ方、作品全体で1冊の本に

-お話を聞いて、少し理解できました(笑)「現代アート」と言われると敷居が高く、難しそうなものだと考えてしまいます。わたしのようなアート初心者はどうしたら楽しめますか?

瀬戸:今回は、本がテーマとお伝えしましたが、展覧会の構成自体も本仕立てになっているんです。横浜美術館からはじまり、新港ピアで終わる、という設定になっています。作品すべてを通して1冊の本のような構成になっているんですよ。

-1冊の本!

瀬戸:横浜美術館前の屋外には、全長約20メートルのトレーラーの作品が置かれることになっています。それが序章です。

武井:ふたつの序章と11の挿話からなる展覧会の構成で、各章ごとに、タイトルと解説があるので、それと一緒に本を読み進めるような形で作品を観ていただくと楽しめると思います。有料ですが、森村ディレクターによる音声ガイドの貸し出しもありますよ。



-早く行きたくなってきました。他にも見どころはありますか?

武井:2つ目の序章となる芸術のごみ箱という意味の作品>では、一般の方から芸術の失敗作を募集します。高さ7メートル程の大きなごみ箱で、まわりは透明の板で覆われています。この中に芸術作品の失敗作を投げ入れる、というパフォーマンスが行われます。
また、「忘却」をテーマで集められた作品の中には、すでに亡くなられた作家の作品も多くあり、結果として20~21世紀の美術史の流れが伝わる展覧会となっています。そちらも見どころです。

-物語に、ゴミ箱に、美術史の歴史めぐり、もりだくさんですね。これって、1日でまわりきれますか?

瀬戸:美術館と新港ピアであれば、1日でまわれます。連携セット券は、創造界隈拠点連携プログラム「BankART Life IV」及び「黄金町バザール2014」にも入場できます。1会場1日有効なので、違う日にちで見ることもできます。

-連携会場?たしかに、主会場以外にも、いろいろな場所で関連イベントが予定されていますね。

瀬戸:初黄・日ノ出町地区はじめ、BankART Studio NYK、急な坂スタジオ、象の鼻テラス、ヨコハマ創造都市センターとは、特に連携を深めて、まち全体でトリエンナーレを盛り上げていきます。この5拠点では創造界隈拠点として、アーティスト、クリエイターが活動しています。
通年、アートを通したまちづくり活動をしていて、トリエンナーレの年には連携して活動をします。それぞれの拠点にはディレクターがいるので、主会場であるヨコハマトリエンナーレ2014のテーマとは異なる、拠点それぞれのテーマを企画しています。

ポスターのヴィジュアルデザイン
版と版画で対になっている。白いイメージの、一見真っ白な余白には“版を彫る”という膨大な手作業のあとがかすかに残っている。他方、イメージの元となる版は、その彫る行為を際立たせるものとして存在する。見えているものの裏に膨大な仕事がある、ということを表現。

-「ヨコハマトリエンナーレ2014」はどんな人におすすめの展覧会なのでしょう。

瀬戸:アートに普段関心のある方も、ない方も、みなさんに来ていただきたいと思っています。トリエンナーレだけでなく、横浜というまちを巡って、楽しみながらアートに触れていただきたいです。また、これをきっかけにアートに興味を持っていただければ嬉しいですし、横浜というまちに興味を持って、また別の機会にきていただけることにつながるのものうれしいですね。

武井:作品をすべて理解することが重要ではないと考えています。わからなくていいと思うんです。横浜トリンナーレに来たことが、モノの見方とか、考え方、そういったものを変えるきっかけになれば嬉しいです。展覧会を楽しむためのイベントやワークショップも随時実施しているので、それに参加して、自分なりの楽しみ方を見つけるのもおすすめです。

 

*事業名の総称および組織名は「横浜トリエンナーレ」(横浜=漢字表記)、第5回展の事業名は「ヨコハマトリエンナーレ2014」(ヨコハマ=カタカナ表記)となります。
※横浜創造都市政策:2004年策定。「港を囲む独自の歴史や文化」を活用し、芸術や文化のもつ「創造性」を活かして、都市の新しい価値や魅力を生み出すことを目的とした取組
※創造界隈拠点:横浜臨海部の歴史的建造物や倉庫、空きオフィスなどを創造的活動の場に転用し、その活動を発信する拠点施設

ヨコハマトリエンナーレ2014
「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」
アーティスティック・ディレクター 森村 泰昌

会期 :2014年8月1日(金)~11月3日(月・祝)
休場日:第1・3木曜日
時間 :10:00~18:00 ※8月9日、9月13日、10月11日、11月1日は20時まで開場(入場は閉場30分前まで)
主会場:横浜美術館、新港ピア(新港ふ頭展示施設)
主催 :横浜市、(公財)横浜市芸術文化振興財団、NHK、朝日新聞社、横浜トリエンナーレ組織委員会

●リンク
ヨコハマトリエンナーレ2014 http://www.yokohamatriennale.jp/
横浜市文化観光局 http://www.city.yokohama.lg.jp/bunka/
横浜美術館 http://www.yaf.or.jp/yma/index.php

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