関内新聞

【意地】頑なな職人魂が出汁にしみ出るおでんを食わす文次郎!

そういえば関内に繰り出すのも久しぶりだな。

このところ寒い日が続いたり、大雪が降ったりで、家に籠ることが続いていたしな。

 

よく考えてみると、関内に出かけるのは、ひと月振りのことだった。

3月になったとはいえ、今日もまだ一段と寒い。出来ればこんな日は、ブラブラと街を歩き良さげな店を探すのではなく、駅から近くの店に飛び込み、何か温かいものを腹に入れたい。そんな気分だ。

 
何がいいか…。
 

今日も朝から何も食べていない。少し日が長くなったから、夕方5時でもまだ少し明るいが、今日は仕事のカタもついたし、このまま温かいものをたらふく頬張り、ガツンと飲んで千鳥足で帰るのも良いか。

JR関内駅の北口を出て、セルテの横を抜けて歩いていると、温かい物の象徴とも言える、あの料理の名前が目に飛び込んできた。

 
おでん・さしみ・串焼き

ほう、おでんか。

やはりこんなに寒い日は、おでんで胃から身体を温めるのが良いかも知れない。

何も食べていない空腹のせいか、それとも寒さのせいか。今日は悩む心は現れず、最初に飛び込んで来た看板に心が惹かれ、その看板が指し示す方向に足が向き、歩き始めている。

きっと赤提灯がぶら下がる渋い感じの店だろう。白髪頭の親父が、寡黙に仕事を続けるような年季が入った店。

そんなことを頭に浮かべ小道を入って歩いていくと、すぐに大きな「白い」提灯におでんの文字が目に留まる。

 
地酒や 文次郎

ほう、なかなかお洒落な店構えじゃないか。

しかしあまりお洒落な店構えは、おでんの出汁が心配になる。想像していたのは、頑固そうな爺さんが年季の入った出汁で食わすおでんだった。

ぐぅぅぅ…。

そうか、そんなことも言っていられないらしい。胃袋は、もう限界を超えたようだ。

今日はここに決めるぞ。

さっきまでは明るかったが、ほんの数分、駅から歩いただけで、気が付けば提灯の明かりが綺麗に感じるほど、あたりは暗くなっていた。身体もすっかり冷え込んでしまっているようだ。

しかし3月になると言うのに、まだまだ寒いな。桜の気配はおろか、先月に降った2度の大雪のせいで、冬の装いをまだまだ拭いきれていない。

そんなことを思っていると、温かく何やら少し香りのするおしぼりと一緒にお通しが運ばれてくる。

 
ほう。綺麗じゃないか。
 

またこのお箸もたまらなくいいな。普通の割り箸ではない。

 
こういうのが良いんだ。
 

おでんも鍋にたっぷりあるぞ。

あれは大根か?

カウンターに腰を下ろした目の前に、おでん鍋に大量の具が仕込まれている。それに綺麗に透き通った出汁だ。これはもしかしたら“当たり”だったかも知れない。

厚く切られた大根も、いい感じに出汁色に化粧をしている。



いきなりおでんから入りたいところだったが、今日はかなり腹が減っている。

それに仕事も片付いたから、「飲み」たい気分でもある。

こういう時は、軽く小鉢をつまんでビールで喉をゆっくり潤してやる。

今日の小鉢はタコのみそ酢和えか。

柔らかいタコが、酢の酸味と味噌の甘味で丁度良い感じ。

 
うまい。
 

こうなったら、おでんの前にもう一品ほしい。ビールもまだあるからな。おでんになるときは、日本酒に変えていたい。

 
焼き魚

この時期にしては脂の乗った魚だ。何という魚なんだろうか…。

どことなく食べたことのあるような、それでいて何だか初めて食したような感覚にもなるこの魚。

お店の人に聞いてみようかと思ったが、何だか聞きにくいな。

まぁ旨いからそれでいいか。

 
よし、ここでおでんだ!

店の看板にも、表の提灯にもその文字がかかれている「おでん」。この店の看板メニューだろう。

いきなり空腹で、本能の赴くまま空腹を満たすためだけに箸を進めてしまうのではなく、軽く腹の虫を納めた今こそ、店の看板メニューを味わうタイミングだ。

それに、この店。おでんには相当な自信を持っているに違いない。

看板にも「おでん」の文字があるということは、この冬の季節だけでなく年中おでんを食わす店なのだろう。

 
相当な自信がなければ季節メニューを看板メニューにはしないはずだ。
 
ここは当然、大根と練り物。白滝も忘れてはならない。

それと変わり種を1種類入れよう。

 
なに?ロ、ロールキャベツ!?
 

おでんにロールキャベツとは珍しい。和風だしに肉汁を閉じ込めたロールキャベツ。

出汁に自信がなければ、このメニューはあり得ない。

味わうしかないだろう…。
 
 
ふぅふう。ほぐもぐ。ほっ、ほほ。

 
ほう、旨いじゃないか。定番の大根にはしっかりと出汁がしみ込んでいるし、見た目から薄味かと思っていたが、しっかりと味もついている。何よりも出汁の香りが最高だな。カツオ、いや昆布…。

かなり複雑な出汁を使っているな。

それにロールキャベツが旨い。肉の味がおでん出汁にまた合っている。洋風のロールキャベツではなく、これは和風のロールキャベツ。和風の出汁に肉汁たっぷりのロールキャベツが、こんなに合うとは知らなかった。

こんなおでんを食わしてくれたんだ。

後は店に逆らわず、店側が勧めるメニューを食べて帰ろう。

そう思っていたところにカウンターの中から、店の親父らしき人が声をかけてきてくれる。



朝どれのいい魚が入っているから刺身も食べて行ってよ

空腹だった胃袋も、おでんの温かさでしっかりと温もっている。それに身体もしっかりと温かくなった。

日本酒も好きな感じの辛口があったんだ。

親父が勧める刺身とやらをいただいてみるか。

金目に方々、平目にイカ…。後はわからないが…。

 
なんだ?これは鯖か?
でも、どうやら〆てないようだ。

 

生鯖を出すのか?それは鮮度に自信がある証拠。散々食べ歩きを趣味にしてきたが、飲食店で生鯖を出す店に当たったのは初めてかも知れない。

相当自身があるんだろう。

カワハギの肝も旨いな。バターのようなコクに、まったりとした食感。何より口の中で、じわっと溶ける感じ。

 
最高だ。
 

次はなんだ?親父はここで何を食べさせてくれる?

ここまで来て通り一辺倒の締めのご飯ものが出てきたらがっかりするぞ。

 
サケといくらの土鍋ごはん
 

2合炊きで出てくるというが、しかし既におでんと刺身でおなかは9割までいっぱいになった。食べられたとしても茶碗に一杯だろう。

そんな悩みを考えていると、親父が余ればお土産(おみや)にしてくれるという。

それに、今から炊き出すから20分ぐらい待てとも…。

丁度良い。ここまであまりの旨さに、日本酒を味わうことが遅れていたが、土鍋ごはんが出てくるまでに、刺身の余韻に浸りながらもう1合いただこう。

この瞬間がたまらない。

確かに刺身に合わせる日本酒も最高だが、何よりも贅沢なのは、それまでに食べた旨い料理を思い浮かべながら、ゆっくりと口の中に日本酒を含み、その香りを頭の中の旨い料理と合わせることだ。

それは食べ歩きが高じた上にたどり着いた、幸福で至福の瞬間だった。

そして炊き上がったサケといくらの土鍋ごはんが出てくる。

サケといくらの親子丼は珍しくないが、それを土鍋で炊き上げ食わせるなんて、どこまでも貪欲に客の胃袋を鷲掴みにするんだ。

サケの腹身の部分から出た脂が、まったりといくらに絡みつき、そのいくらがやや身を崩しながらご飯にしみだせば、土鍋の中は黄金色に輝く黄金の米の海。

まったりとした脂も嫌な感じをさせない。

お腹がいっぱいだったことも忘れ、1割以上も胃袋のキャパを超えて黄金色に輝く米を口に運んでいた。

 
最高の店に巡りあった。
 

赤提灯の白髪の爺さんが作る年季の入ったおでんを想像したが、白提灯のおでんもまたいいかも知れない。このお洒落な店構えからは想像もつかないこだわりの出汁で食わすおでん。

それに刺身を食べた上に、締めにはこの土鍋ごはんだ。

 
 
やばい…。千鳥足になるどころか、腹がいっぱいで歩けない…。

 
仕方がない、駅も近いことだし、今日はこのまま素直に帰るか。

2軒目に行くほど、もう胃袋には余裕がないらしい。

 

ショップデータ

地酒や 文次郎
  • 横浜市中区尾上町3-40
    第二柳下ビル1階
  • TEL:045-633-3807
  • WEB:www.bunjiro.biz
  • 営業時間:
    【月~金】ランチ 11:45~13:30/ディナー 17:00~25:00
    【土・祝】17:00~23:00
  • 定休日:日曜

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