「一流のバーテンダーが横浜・関内に集結する」カクテル・ショウを主催するWebメディア「関内新聞」の運営会社8thOceanが、横浜港開港当時より紡がれる異国情緒と温故が交差する街・関内に移転して営業を始め3年。
多くの出会いがあったが、なかでもバーテンダーとの交流は、関内に根付く大きな拠所を与えてくれるものだった。
そんな大きな存在であるバーテンダーひとりひとりの技術や、カクテルの味を伝える機会となった今回のカクテル・ショウ。
11月3日文化の日、この日も多くのファンの方々が来場し、贔屓のバーテンダーのブースに立ち寄り、各バーテンダーの一杯入魂に注がれたカクテルを片手に来場者は笑顔で溢れた。
会場が、カクテルに魅了された来場者で満たされたころ、横浜バーテンダーの重鎮、LE BAR Sur’e Tの井田 達也氏のMCで、いよいよカクテル・ショウが開演!!
今回のショウに登場するバーテンダーは7名。国内外のコンペティションにも多数出場し、優秀な成績を残すツワモノも含まれる。
それでは登場順に紹介しよう。
岸本さとし氏(DINING BAR 岸本酒房)
「酔っ払いよ、集まってくれてアリガトウ!!」と、トップバッターの緊張感も吹き飛ばすほどにファンサービスを行う岸本氏。
ここで魅せてくれるのは、横浜発祥のカクテル、バンブー。
横浜のグランドホテルのチーフ・バーテンダー、ルイス・エッピンガー氏が考案したとされ、1890年に日本初のカクテルとして世界が認めた歴史あるカクテル。
この日のために、ホテル・ニュー・グランドに確認してきたという!
バーテンダーの、最も使用頻度が高いとされるステアという技法により、その名の通りバンブー(=‟竹”)の爽やかでキレのある味を表現。
レシピには、香りの高いベルモット・ノイリー・プラット ドライを使用する。それが、岸本氏のこだわり。
ふたつのカクテルグラスに注がれ、完成。来場者から試飲者が選ばれ、その喉を潤した。
伝承の、横浜の歴史を感じさせてくれるホテル・ニュー・グランド仕込みのバンブーは、DINING BAR 岸本酒房にて。
臼田徹氏(Bar D,jr)
爽やかな笑顔で登壇した臼田氏。若手ながら実力と舞台度胸を兼ね備えていると、MCの井田達也氏絶賛のバーテンダー。
ボトルを来場者に披露しながら、今回つくられるカクテルのテーマについて語ってくれる姿は、なるほど、会場を沸かしている。
供じられるカクテルは“フェリス”。2014年ヨコハマカクテルコンペティションで銀賞受賞カクテルだ。
フェリス=幸せを意味し、前述のコンペのテーマである「恋するヨコハマ」にちなんで考案された。
横浜を代表する女学校フェリス女学院、誰もが知っている名門学校で、そこに通う可愛らしい女の子をイメージした作品。
試飲に白羽の矢があたったのは、カクテルと同じくピンク色に頬を染めた可憐な女性。
今回2年ぶりに飲んだというカクテル、フェリス=“幸せ”の名にふさわしい表情に満ちているようだった。
“恋するヨコハマで、頬をピンクに染める”カクテルは、Bar D,jrにて。
齊藤崇眞氏。(BAR NORGE)
中華街にて、地元横浜のみならず、観光客も多く訪れるBAR NORGEから、1958年ベルギー万国博覧会のカクテル・コンペティションで1位を獲得したカクテル、レッド・バイキングを紹介。
レッド・バイキングはデンマークのバーテンダー、ガストン・ヌアール氏によって考案されたもの。
レシピにはアクアヴィットを使用するが、ノルウェーの名を冠するBAR NORGEの齊藤氏は、ノルウェー産リニア・アクアヴィットを使用する。
無色透明のアクアヴィットが多い中、リニアは樽熟成由来で色調は茶色い。そもそもリニアには“赤道”の意味があり、大航海時代にアクアヴィットを樽で輸送したところ、偶然にも熟成したものが美味しかったという説があり、これにちなんで現在でも船の中、樽熟成が行われている。
出来上がるカクテルは意表をついて、赤くない。
考案者のガストン・ヌアール氏がイメージする海賊は赤く高揚していたのだろうか。グラスに浮かべられた大きな氷は、北欧の海賊が挑んだ航海での難所のひとつ、猛々しい氷山を想像させる。
北の果て、猛威で人々を震え上がらせたヴァイキングの航海に想いを馳せ、BAR NORGEに赴きたい。
田村誠氏(Bar Brilliant)
過去のカクテル・ショウとあわせ3回目続けてフル出場しているバーテンダー。
細面に、シュッとした立ち居振る舞いは、バーテンダーの美所作のお手本のよう。大御所と言われる所以だ。
田村氏の技が披露されるカクテルはノンノ。アイヌ語で“お花”を意味する、田村氏のオリジナルカクテルだ。
華麗な手つきも鮮やかに、ボトルを披露し、また説明も行う。田村氏のカクテルは、氏のこだわりの結晶だ。
ジン、ボンベイ・サファイヤをベースにヨーロッパで人気のエルダー・フラワーのリキュール、サン・ジェルマンを。金柑ノリキュール、キミヤ、さらにカシスのリキュール、ルジェにフレッシュなグレープフルーツジュースを用いた、レシピからも華やかさをイメージできるカクテル。
飾られたのは、横浜の花にちなんでエディブルフラワーのバラ。
愛らしいカクテルに試飲希望が多数。ラッキーにもこのカクテルを手にできたのは、カクテル同様に華やかな来場者だった。
妙技に鮮やかな色合い、デコレーションも華やかなカクテルは、Bar Brilliantで。
中村英吾氏(BAR SANCTUARY)
過去の職歴は高等学校教諭という、異色の肩書を持つ。
教諭時代、足しげく通った大好きなバー。そこでバーテンダーに憧れ、キャリアの転向を思い立ったが踏ん切りがつかなかった。
悩む自身の背中を押したのは、カリスマバーテンダーの高橋歩氏の本“サンクチュアリ-”だったという。今年2016年11月、満を持して独立、オーナー・バーテンダーとなる。
落ち着いた表情からつくりだされるカクテルはダリア。第4回プレミアムテキーラ・カクテルコンペティションで金賞受賞。
ダリヤとはメキシコの国花で、このカクテルにはテキーラを使用する。さらにダリヤの花を愛したフランス皇帝ナポレオンの妃ジョセフィーヌにちなんで、フランスのリキュール、シャンボールも使用し、エレガントさを表現している。
大胆に、大きく体を使ってシェイカーは振られ、そっとグラスに注がれたその姿は、なんと情緒あるカクテルだろう。知性すら感じさせてくれるひと品。
中村氏のオリジナルカクテルは、11月11日福富町に新規オープンするバー・サンクチュアリーで。
安里勇哉氏(Bar Prima)
通称サリー。若い人たち、特に女性のファンが多く、登壇と同時に声援が飛び交った。
披露されるカクテルはプロムナード。安里氏のオリジナルカクテルで、演奏会にも使用される言葉であり、音楽を愛する彼自身にもぴったりのネーミングだと語る。
リキュールには桜や、横浜市の花・バラも使用されていて、花の香りたつカクテル。
音楽を愛でるという安里氏のシェイカーは、リズミカルに小気味よい音をたて、また彼の表情もカクテルの声を聴いているかのよう。出来上がったカクテルを楽しむ来場者は、華やかな花の香りに包まれていた。
実は、安里氏には、ダンサーというもうひとつ顔がある。なるほど、若い女性のファンが多いのもうなずける。熱いコールに応え、少しだけダンスパフォーマンスを披露し会場を大いに賑わかせた。
この続きはぜひBar Primaで観たい。
関谷茂人氏(Bar Merry Widow)
最後の登場となった関谷氏は、この日ホットカクテルを披露してくれた唯一のバーテンダー。
MC井田氏も言うとおり、関内のバーテンダーの中で間違いなく10本の指に数えられる…というほどのイケメンである。
そんな彼のパフォーマンスは、アイリッシュ・コーヒー。
さてアイリッシュ・コーヒーとは…、と説明をしながら、カクテルに使用するコーヒー豆を挽くことから始まった。喫茶店勤務の経験を活かし、丁寧にハンドドリップへと続く。
アイリッシュ・コーヒーとは、文字通りアイルランドのウィスキーをコーヒーで割り、ホイップクリームを浮かべてサービスされる飲み物で、そもそもはアメリカで飛行船の給油時、凍えるほどの寒さのなかで待たせる乗客にふるまれていたのが始まりとされる。
という説明を聞きながら作業の手は進められ、1番の見どころとも言えるウィスキーを温める行程へ。
グラスが直火にかけられ、液体が温まり、さらにウィスキーをフランベし、香りを上げる。
ザラメ、ホイップクリームが加えられ完成。濃いめのイタリアンブレンドのコーヒーにザラメの甘さ、ホイップクリームの滑らかさ…。イケメンが淹れたアイリッシュ・コーヒー、筆者も飲んでみたかった。
この想いを胸に、Bar Merry Widowへ走り、熱いアイリッシュ・コーヒーを堪能したい。
全7名のバーテンダーがそれぞれに魅せてくれた今回のカクテル・ショウ。
取材のために訪れたのに、最後にはすっかり観客気分で満喫してしまった。
次回のカクテル・ショウは岸本さとし氏をMCにしてはどうかと、井田氏からの提案で、ますます盛り上がりに拍車がかかる予感。
次回開催告知は、この関内新聞にて、乞う、ご期待!!