関内新聞

【正夢】酔い締めに食べる大将の寿司で、正しく〆る一夜の遊覧。

すっかりと良い気持ちだ。

いつもに比べて珍しく定時に仕事が終わり、関内の街に飲みに繰り出したうえ、Barにまで2軒目と称したハシゴ酒。

ちょうど良い気候が足を大通り公園へと向かわせる。

まっすぐ家路に着けばいいモノを、何故か今宵はまだ何かを求めていた。

良い気分に任せ、良い調子で大通り公園に沿い、随分と歩いて来た。デカいビジネスホテルの交差点も超え、少し淋しくなったと思ったら、煌々と光る灯りに吸い寄せられて足が止まる。

時間は既に24時に近い。

こんな時間からの〆と言えば、濃い味の汁物を求めてしまう癖があるのに、この日はコイツに惹かれてしまう。

この時間から男一人で寿しをツマむというのも、
渋くて良いかも知れんな

そう腹が決まると、酔っ払いを最高の状態で引き留めてくれた鮮やかな看板に言われたように、迷いなく地下へと足を踏み入れていく。

最高の気分の時の直感は信じるべきだ。

コンビニの横の階段を一目散に降りて行くと、素敵な迷宮にすら見える地下に素敵な趣の扉を見つけることが出来た。

寿し彦呂(すしひろ)

ややもすると敬遠してしまいがちになる一見でのお寿司屋。ただこの扉には、無性に呑兵衛のハートを鷲掴みにする安心感がある。

ガラスの扉の先には、寛ぎながら寿しをツマませてくれそうな優しい空間が広がっていることが見て取れる。扉で気持ちをくじかれることもなく、良い気分がしっかりと決めた、今宵の〆めを遂行できる。

そういう計らいのある店には、間違いない喜びが待っているはず。



ほぅれ、見てみたことか。

 
程よく明るい店内は、開放感というカタチで更なる安心を与えている。

そして、視線の先には美味そうな酒瓶も並ぶ…

…と思ったら、足を踏み入れ、どこに座ろうかと立ちすくんでいる横にも良さげな焼酎クンが並んでいるじゃないか。

安心感に一升瓶。この時点で、お前は間違いなく当たりを引いていると、自分で自分を褒めてやりたくなってしまう。

しつらえの良いカウンターまであった日には、ちょっと背伸びした気分で、回ってないお寿司をカウンターで静かに食べてみるか。

黙々と仕事をする大将がいるカウンター。初めて来た店で、そのような場所に位置取りをするのには、本来大きな勇気がいるもんだが、どことなくその横顔からも安心感が伝わってくる。

しつらえの良いカウンターには、これまた小ジャレた一人用の盆。和のテイストがしっかりと伝わる箸置きまで居てくれている。

 
ふぅ…

圧倒的にいつもより早いタイミングで出た幸せのため息

これに続き、いつもの決め台詞までもが喉を越して出てくるところだったが、ビールで焦る気持ちを食い止める。散々飲んで来たというのに、大通り公園沿いを少し歩いて来たことで、喉が潤いを欲していた。



おまかせ握りを一人前…

本当に贅沢だな…

散々っぱら飲み歩いた夜の〆。それがこんなにしつらえの良いカウンターに座り、目の前に大将の華麗な仕事っぷりを見ながら寿しをつまめるとは…

きじはた

ほー。「きじはた」とな…

普段は回る回るで見ただけでパクッといってしまうところばかりだったから、一貫一貫の魚を知ったうえで食べるのも嬉しいもんだな。

それにしても、このきじはた。しっかりした弾力があり、程よく引き締まった甘みも感じる。何ともビールに合う美味さじゃないか。

んん?

随分と厚みのあるネタ。程よいピンクかかった身に、何やら可愛いものが鎮座している。

ネタが何だかわからないけど、この見た目にのんびりとは構えてられんな…

 

パクっ

 

何とも弾力のある歯ごたえ。それに上に乗っていた物体が口の中で良いアクセントを付けてくれる。

大将:
それは「かさご」だね。上に乗ってるのが肝。

お客さん、かさごの頭って見たことあるかい?

大将:
ほら、これがかさごの頭だよ。

 
へぇぇぇ
 

何とも優しそうな顔をしているじゃないか。

職人気質(かたぎ)のムッとした顔を想像していたが、繊細な寿しを握る優しい大将。わざわざ見せてくれたカサゴの頭に目が向くことなく、気になったのはそっちの方。



クロダイ昆布締め

 

パクっ

 

こちらは引き締まった身が良い食感。

マグロの漬け

 

パクっ

 

何とも…

赤身をしっかり漬けにして、良い仕事をしている。上に乗ったわさびもピリッと効いて、何とも何ともだな。

海老

コイツには子供の頃から目が無い。最高の照りがコイツが最高であるとアピールしてくるな。

 

パクっ

 

うん!間違いない美味さだ。寿司ネタの中でコイツが一番と言っても…



本マグロの中トロ

好みのネタに思わずうっかりした事を言ってしまいそうになった。

が、だ。

立て続けにコイツを口にするまでは、うかつなことを言っちゃならんな。

 

パクっ

 

う、美味い。イヤミの無い脂。まったくしつこくない。それでいて、あっさりと口の中でとろけてくれるちょうど良い頃合い。

 
大将:
今日はちょっと良いところが入ってたんだ。それ美味いでしょ?それはね中トロでも頭に近いところなんだよね。マグロは頭に近い方が旨いんだ。

た、大将!?

カウンターの中から声がしたと思っていたが、急にいなくなったぞ。いや違うか。中トロを食べた口の中が、無意識に日本酒を頼んでいたんだったか。それを取りに行っていたのか…

 
大将:
その日本酒は、「大将の隠し酒」だね。隠し酒っていうぐらいだから、いつもある訳じゃないし、何があるとも決まってない。メニューに載せない気ままな隠し酒だね。

うにとイクラ

 

パクっ

 

一口で頬張ると、一気に口の中に芳醇な磯の香りが広がる。これは何とも言えん!

大将:
そいつぁ無添加のウニ。味が濃いでしょ?

 
確かに。芳醇な香りは日本酒を流し込んでも、まだ口の中に残っている。これが、ウニが本当のウニらしい味をしているというヤツか…



 

パクっ

 

なんと、こっちはしょうゆ漬けになっているのか。プチッとした食感にかぶせてくる丁寧な仕事…、いや心配りってところだろうか。食べなれているはずのネタが、この大将の腕にかかると、初めて食べるネタに早変わりだ。

アナゴと玉子

 

パクっ

 

ほっほぉ~。コイツもか…

毎度口にしているアナゴとは違うぞ。何とも香ばしく薫り高いアナゴ。そいつはまるでコイツ自身がただモンではないと名乗っているような味。

ぐいぐいと押し寄せてくる歓喜の波に飲まれてしまいそうになる。

ガリを挟んで、高揚を沈めてやらんとな…

 

パクっ

 

コイツでお任せ握りも最後か…

や、柔らかい。玉子本来の甘味が良い感じで香る絶妙の味。

 
ふぅう~

乾杯…、いや完敗だ。



ハシゴ酒した深夜に、渋く決めるつもりだったが、リズム良く握る大将のペースに完敗。

〆の本当の〆のアラ汁を飲んで、嬉しい完敗を静かに祝って帰る…と、する…

ん!

大将:
アラ汁って、ややもすると生臭くなることもあるでしょ。なので、アラを炙ってから使ってるんだよね。

 
なるほどな…。何か違うインパクトがあると感じたが、それはアラを炙った香ばしさだったんだな。

ふぅ~~

また見つけちまったようだな。

 
今宵の〆をシブく決めるつもりで、看板に引き寄せられるように入ったこの店で、リズム感バツグンで出てきた10貫のお任せにぎり。

普段だったらこんな深夜にこんなボリュームは食べないだろうが、あっさりと食べさせられた。そいつもきっと、優しい大将の魅惑的な「良い仕事」だったんだろうな。

それは、
当たり!だな。

満面の優しい笑顔が間違いではない証拠。

何とも何とも。

関内の街に繰り出し飲み歩いた後の、最高の〆。シブく決めるつもりが大将の魅力に乾杯する〆。

ちょっと離れたところまで来たが、最高の〆を迎えた夜を気分よく歩いて帰るとするか。

 

ショップデータ

【閉店】寿し彦呂
  • 横浜市中区弥生町2-18
    ロイヤルステージST大通公園 B1F
  • TEL:
  • 営業時間:
  • 定休日:

 

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