お通しとして出されたこのポテトサラダも、さりげなく今宵の時間の始まりを刻んでくれる。ピリピリとした緊張もなく、一つ口に頬張ってやるだけで、幸せ過ぎるため息が出てしまうようなホッとする味。
そうだ、時間はタップリあるんだ…。
一つ一つのお料理を、そして一口一口のお酒を、ゆっくりと時間をかけて楽しんで和む。それが今宵のテーマだったんだろうさ。徐に足が向くままに訪れて、この店を選んだ明確な訳にも気付かないでいたが、時間をかけて食事を楽しむということこそ、素直な心が求めていたものだったのだな。
ふぅ…
その心の素直な気持ちが理解できれば、その意に反することなく、ゆっくりと食事を楽しんでやろう。ソムリエならぬノムリエと名乗るマスターがいる店。とりあえずのビールはとりあえず一杯だけにしておき、ここからはノムリエに身を預けて頼むとしよう。
とりあえずのビールの後には、スパークリングだな。ビールに続けてワインというのは、いつもの定番シナリオになりかねないところを、珍しくスパークリングを挟んでいく。自らが欲望に任せてメニューを決めてしまっていては、普段と変わらない当たり前の夜になってしまう。
こちらのアルコール耐久度を理解してくれているノムリエさんに、お任せして食事と合わせた絶妙の組み合わせの飲み物を出してもらっている方が、普通過ぎる夜にならなくていいだろうな。
それにしても…。
このホワイトアスパラのピクルスは、程よい酸味と薫る甘味が絶妙な感じだ。酸味にワサビが最高のアクセントになる。どことなく和で、どことなく洋。そして、その和洋折衷を証拠付けてくれるのが、スパークリングとの相性が良いという点だろう。
ほぉ…。
厚切りベーコンか…。
赤ワインと一緒でも嬉しいし、スパークリングでも軽やかなコンビを組める。何に合わせても嬉しい一品だ。
何せ、時間はタップリとあったんだ…。
身を任せて時間の流れを感じるために、ゆっくりと食事を摂るんだ。大好きな赤ワインを焦らすように控えさせ、スパークリングと共にゆっくりと胃袋に固形物を送り込む。普段なら、胃袋の虫たちにせかされるようにメニューを頼み、一つ一つに時間をかけるという、この世で最も贅沢で至福な行為をおざなりにしているところ。