本当に久しぶりだな…。
この街で過ごす3度目の冬。暖かい季節とは違って、冷たい空気に触れていると人寂しく感じてしまうのは、年が変わるこの季節だからだろうか…
このところ線路を越えて関外へ繰り出すことが増え、気が付いてみるとアイツと出かけるのも本当に久しぶりのように感じる。
忘年会や新年会などと言ったパーティー事のイベントの合間を縫って、ようやく時間ができたと言われた夜には、ウキウキ気分をひた隠し、細やか程度のお祝い気分で雰囲気のあるお店でのんびりと時間を過ごして、これまで紡いできた歴史をたっぷりと振り返ってやりたくなってしまう。
太田町のビジネスホテルの隣にシッポリと飲め、ゆっくりと時間を過ごすことができるBarがあるというのを思い出し、アイツには先に店に行っているようにとメールを打っておいた。
童話にでも出て来そうなレンガ造りの外観。季節的なこともあるのだろうが、キラキラと電飾が飾られI’m home.と笑顔で叫んで扉を開けたくなる趣。
こんな暖かいムードを、心の奥底でずっと探していたんだ。
高級感がある真紅のソファーや椅子に、落ち着いたダークブラウンのテーブル。壁に沿ってはキッチリとした四角いテーブルに、ホールのセンターには優しさのある円形のテーブル。パーティまでもできてしまう広い店内で色と形それぞれが絶妙に織り成すコントラストが、寒さでトゲトゲした身体と冬がもたらす寂寥感に震えた心を和ませてくれる。
バックバーにはたっぷりのボトルが並び、ゆっくりと語らう時間を保証してくれる安心感を見せている。
幾度、こんな時を過ごして来ただろうか…
三度目の冬を越すともなれば、歩んで来た長い道程をそれなりな想い出として笑い合って語たりたくもなってしまう。星が降ってきそうだったあのBarで過ごしたことや、中華街のBarで浮かれた夜のことまで、この街で過ごした何度とない優しい夜が走馬灯のように蘇る…
パクパク隊:
本当に変わってないワね。毎回思うし、毎回言ってるけど、妄想を繰り広げながら一人で浸る時間が長すぎるのヨっ!ずっと我慢して待ってる身にもなって欲しいわよ。直す直すって何度も言うけど、いい加減に行動で示してよね。
オッ…と、
そうだったな。何度も何度も、この癖を直せと言われていたんだった。新しい妄想のバージョンを編みだし、次につなげる進化をする男になってみよう…
それでお客様は何を…
そうだった。解放感たっぷりの店内で妄想にふけ、すっかりオーダーすることを忘れてしまっていたが…
な、何だと…
先に店に入っていろとは言ったが、まさか一人でお酒をオーダーすることまでできているとは。幾度となくBarには連れて行っていたが、そこまで何でもできるようになってくれちゃっていては、こちらの役目が無くなってしまうではないか。
その成長っぷりに淋しさを感じノックダウン寸前でオーダーできたのがビールでは、立場がすっかり逆転してしまっているな。
気が付かない内に成長していたパクパク隊。そのグラスの中身とは?