当たり前のことだが、それは紛れもなく、先ほどまで取材を忘れて物欲の赴くまま羨望の眼差しを送っていた先にあった、アイツらのどれかに違いなかった。
これはどの子が誕生するのですか?
恐る恐る問いかけてみると、テンポ良く音を出すミシンを止めることなく職人さんは答えてくれる。もちろんチラリともこちらに目にやることもない。
これが匠の持つ集中力か。
あの壁にある白いバックです。
そう教えられた先に、改めてカメラの焦点をやると、そこには先ほどPCや資料を入れる普段使いにちょうど良いと目星を付けていたあの子がいる。
週末以外はiPadだけではなく、PCの他、営業用の資料やパンフレットを持ち歩いているため、このサイズのバックはいくつかあって良いと思っていた。
この子は手に持ってもおしゃれだし、ショルダー用のベルトで肩からかけることもできそうだし、使い勝手が良さそうだ。
このバックならたくさんの資料、そしてPCもiPadも、普段持ち歩く全てが入るな。
そう思っていたバッグが、いま作られている。そう思っただけで、ワクワクする心が止まらない。
もう、物欲はMaxに達しそうだった。
一つ作るのにどの位かかるのか?
そんな質問を投げかけてみた。
今まさに目の前で欲しいと思っているバッグが作られているのだ。出来上がりを見たくてたまらなくなるのが心情というもの。
ただ、その質問を発したことを後悔することになった。
多くの行程を経て仕上がる横濱帆布鞄
こだわりの手作りの鞄。そんなに簡単に出来上がるわけはない。
質問した張本人でありながら、愚問を尋ねてしまったと反省の念が湧いてきた瞬間、背後からも軽快なミシンの音が聞こえてくる。
そう、また別の職人さんが、さっき見たものとは違う場所を縫い合わせる作業をしている。
そうか、役割分担で一つのバッグを完成させるのか。
確かに数人の職人さんが作業していることは何となくは気がついていたが、別の何かを作っているのだとばかり思っていた。しかし、よく見てみると同じ部分を縫う作業を繰り返している。
そして、一つの縫い終わったと思うと、また次に手をつけ、縫い終わったものは傍に積み上げる。
その作業を繰り返していた。
そうか。流れ作業だ。
そのことに気がついた視線の先に、今度はミシンで縫う作業ではなく、鞄らしきものを苦労して裏返す作業をしている。
そんなに力が必要なのはなぜだ?