深紅のカウンターの異次元空間に座れば、否が応にもその存在が気になってしまう、何やら不思議な瓶が立ち並ぶ姿。よく見かけるジンやウォッカのボトルに、ラベンダーだのコーヒーだのが、名札のように貼られている。
原田さん:
せっかくですから、次は当店オリジナルのウォッカのインフュージョンを使ったカクテルでも召し上がってください。
この店に来て初めて知ったインフュージョンというジャンル。果物などの香りあるものを漬けこみ、香りと風味づけがなされたジンやウォッカ。それを使ったカクテルは、毎日変わる気分やココロと合わせると、すっきりもすれば和んだりもする。
モスコミュールを柚子で…
こういうオーダーの仕方で良いのだろうか。声に発した後に心の中で葛藤するも、そんなことを気にする様子もなく美しい所作を見せてくれるバーテンダーが、なんといってもBarの最高のエンターテイメントだろうな。
原田さん:
色々なフレーバーがありますが、お客様のその日の気分で選んでいただいても良いと思います。
原田さん:
モスコミュールにするなら、柚子も当然合いますが、珍しいところではコーヒーを漬け込んだインフュージョンボトルも、実は意外に合うんですよね。
BAR Day Cocktailでは、自家製のジンジャーシロップを使ってモスコミュールをお作りしていますので、それだけでもジンジャーの風味が活かされていますが、生姜のインフュージョンを使うと、生姜の風味が更に強くなって美味しいと思います。
同じモスコミュールといっても、使うウオッカの種類で趣が変わるし、更にそのウオッカに様々な香りが閉じ込められていれば、その顔は無限大にも広がるということか。
気分に合わせて香りを選ぶ…。
まるで新しくなった部屋に合わせたアロマを選ぶように、リラックスするバスタブに入れる入浴剤の香りを変えるように、モスコミュールの顔もその時の気分によって変えても良いってことなんだな。
原田さん:
お待たせしました。
柚子のインフュージョンボトルを使ったモスコミュールです。
生姜の香りの奥に秘められた柚子フレーバー。ピリッとくる生姜の香りは、自家製のジンジャーシロップが成せる技。そこに柚子の香りが上品に香ってくれば、口の中で優雅に香りがワルツを踊る。
遅い時間にBarに来ると、いつもバーボンの一点張り。
そんなBarに慣れていないときの悪い習慣は、いつの間にか無くなったとは言っても、いつものバーボンだけは別格。
そうは言っても…だ。
今宵はBarから始めた夜。いきなりガツンとくるバーボンでは、この後の行動に障りがある。それに、さっき頼んだ至極のBarメシとの相性も考えれば…。
小エビのアヒージョ
優しくガーリックの風味が効いたアヒージョ。それを大好物のエビで作ってもらう。寒い夜にはクツクツと煮え立つオリーブオイルの見た目が、視界から心と身体を温めてくれる。
バケットにエビを乗せて、そのオリーブオイルの風味と一緒に頬張るのが最高の一品。一人で飲む贅沢な時間に、ガーリックの香りを遠慮する必要はない。
しかし、万が一にも素敵な出会いがあった時のために、と思うのであれば、このジンジャーの香りが際立つモスコミュールに助けを求めればよい。
驚きにも!
アヒージョのガーリックの風味は、モスコミュールを一口流しいれるだけで優しく消える。その効果と相性で、アツアツのアヒージョはモスコミュールがなくなるとともに、きれいに跡形もなく胃に引っ越しをし終えているはず。
一瞬だな…
インフュージョンという香りのファンタジー。自家製のジンジャーによる、優しい強さを感じる安心感。それにアヒージョという姿で挑むガーリックの包容力。
目を閉じ噛みしめ、意識を集中して注ぎ込む流れを繰り返せば、アヒージョとモスコミュールがペアを組みワルツを踊る社交ダンス。
だから異次元なのだろう。
って、まだまだ妄想が終わらないようですね。