作業が片付かず、すっかりと終わりが遅くなってしまった。
集中して作業に没頭していたこともあり、気が付いてみると晩飯という時間からは、大きくずれ込んでしまっている。
こんな時間からアイツを呼び出したとしても、きっと美味いもんを食べ終わったと、出不精になって付き合ってはくれないだろうな。
仕方が無い…か。
久しぶりにこんな夜も良いもんだ。
そう決め込むと、いつものようにアテもなく街に繰り出すことにする。
何が食べたいか…とか、何が飲みたいか…などという気分ではない。そんな夜には、関内の真ん中から東西南北どちらに一歩を踏み出すかで、ノレる気分が決めてくれる。
そう決め込むと、桜通りをJR関内駅の方に…、そう西に向かって一歩を踏み出した。
今夜の気分は桜通りなのか?
この通りにも胃袋を魅了する、多くの飲食店が軒を連ねる。その通りを目で何かを追い求めながら、ゆっくりと歩いていく。
が、今夜の胃袋は、この通りで足を止めることを許さない様だった。二日酔いの朝に、すっきりした気分になりたいとやって来た、酸素カプセルの店がある建物を右に折れ、関内の入口ともいえるたこ焼き屋の交差点を更に進み、気が付けば馬車道通りすらをも超えていく。
胃袋の気の赴くままに任せ、辿り着いたのは常磐町の6丁目界隈。このあたりは隠れきれない良店があると、居酒屋で呑んだ後の2軒目として、しばしば訪れたことがあるエリア。
胃袋よ…、
今夜のお前の気分は、どこに連れて行こうとしているのだ…。
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たばこの自販機を通り過ぎ、何となく後ろ髪が惹かれて足を止め振り返ってみると、そこにはビシビシと爽やかに怪しげを放つ魅惑的な扉が、手を伸ばして開けて見ろよと主張している。
一歩下がってとしても、躊躇う心を確かめるかのように、固唾を飲むこちらに向けて、角がちゃんと尖ったムードで攻めてくる。
すっかりと足を止め、そして最後は、この重厚な扉を開く決意を固めるだけ。今夜の気分は、この店へと連れて来たかったのだろうか?それとも、この場所で胃袋が満足できると感じているのだろうか?
夜が遅くなったとは言え、ランチを摂ってから何も口にしていない胃袋が、どう見てもBar、どこをどう見ても酒を美味しく飲むBarであると思える出で立ちの店に、なぜ入らんとしているのか。
直感を信じてみるか。
そう決め込み重厚感バツグンの扉を開くと、更に広がる怪しげとは違う魅惑的なムード。カウンターだけの店内は、しっかりと雰囲気を作り暗めの店内にお客が所狭しと並んでいる。
そして、更に一歩店の中へと足を進めると、視界の右側からカウンターの中に、これまた所狭しと並ぶ無数のアルコールのボトルが、青紫の灯りに魅惑的に…、いや、その域を適切に超える妖艶さを放っていると言った方が良かった。
なぜに今夜はBarだったんだ…。