本当に疲れた一日だった。溜まりに溜まった業務に没頭するあまり、気が付いてみると胃袋の虫が騒ぎ出す時間をゆうに超えてしまっていた。
日中は四方八方に飛び回り、夕方からはデスクワーク。細かい数字や文字が書かれた書類にばかり目をやっていたこともあり、気が付いた時には書類をぼんやりと眺め、無意識のうちに3Dアートの隠れた模様を探しているかのようだった。
疲れたな…
さて、こんな時間になってしまった。疲れた神経を癒すため、今宵はどこに出かけようか。
こういう疲れた時は静かに飲める場所が良い。それは無音の空間を求めているわけではなく、そっとしておいてくれる優しさがある場所でゆっくりと飲んでいたいと言うこと。
そそくさとデスクを片付けオフィスを出ると、今宵の足は弁天通を北に向かって歩き出す。関内でも一・二をあらそう煌びやかな通り。見ているだけでも優雅な気分になれるこの界隈は、衰えを感じさせることが無い。
普段はあまり足を止めることが無いこの弁天通で、珍しく何かが気になるように歩みが止まる。
はて…、キッチン&バーとはなんだ?
そんな疑問と同時に、関内に来る時は必ずと言っても良いほど歩くこの弁天通で、この鮮やかなブルーの看板を視界にとらえたことがなかったことに気が付く。
住居用のマンションかと思っていたが、1階にはテナントとして飲食店が入っているのか。住居用の入口とは別の奥に入っていく通路の先に、また鮮やかなブルーを見つけることが出来た。
何か惹かれる。
こういう感覚は、間違いなくあたりを引く感覚。疲れている時だからこそ、その身体が欲する確かな感触が正しい選択をしてきた。
そうなればだ…
KITCHEN & BAR K2J
この扉を一目散にそっと開き、その先にある鮮やかなブルーの正体を突き止めに入ってみるだけだな。
そぉ~
広々としたカウンターに、
座り心地の良さそうな、懐かしさを感じる黒い革張りのソファー。
モンステラの葉が更なる居心地の良さを感じさせてくれるアクセント。
それは今宵の気分を見透かされて、この時間を求めて辿り着いたコチラのために用意されたかのようなバッチリな空間。静かにかかるオールディーズの音楽が、何も口にする前から既に癒しを与えてくれる。
ゴ…、クリ…
思わず最速のタイミングでいつもの決め台詞が出かけ、それを飲み込むとゆっくりとカウンターに腰を下ろす。