さて、とりあえずビールだ。
いくら寒い季節だと言っても、仕事終わりの一杯のビールは無くせない。例えそれがワガママに都合の良い理由で、仕事を早めに切り上げて出てきていたとしてもだ。
心の中で呟きながらの一人での、乾杯をもっとおいしくしてくれるのは、よく冷えた生ビールに震えるほどの喉越しを感じた瞬間だ。
ソォーッ…
ニヒルな笑みを口元で表現し、小鼻を膨らませて得意気に雰囲気に浸る。
そして、その瞬間にタイミングを合わせたように始まる、息継ぎという名の“句読点”をどこに打てば良いのかわからなくなってしまう長い妄想に酔いしれ、自らでは終止符を打てないこの時を誰かに止めて欲しいと思うが、その役目のアイツが最近いない。
いい加減、そんな事にも慣れても良いだろうに…。
ほぅ…。
湯葉に、お浸しに、鮮やかなイクラのお通しか。のっけからハイスピードで、テンションを上げてくれる物が出てくる。仲間が現れるまで、今しばらくの時間があるとは言え、先にガッツリとやってしまうと機嫌を損しかねない。
湯葉をチョイチョイっと、イクラをちびちびット、ゆっくりとやっていなくては…。
ムリ♪
一人で乾杯をもっとおいしくしているうえに、のっけからテンションを上げてくれる嬉しいお通しがお出ましとなれば、意思の弱い今宵の意識では立ち向かう気力にもならない。
濃厚な湯葉のクリーミーな味わいのアクセントに、イクラのプチッとした食感。呑み助のハートを鷲掴みにしてくれる。
ハートを鷲掴みにされた呑み助が、次にすることといえば、少し前に来たばっかりだよと演出するために、空きかけたビールのグラスを新しいものに変えること。
空きかけたグラスを観られてしまっては、
なんだ、早々に来て先に始めてやがったのか…。
た、ただ…、
カツオをまとう土佐豆腐に、ほっこり温かダシで更に気持ちが緩んでしまうと、姑息な理由で生ビールのグラスを新しくした作戦も無駄に終わることになりそうだ。
い、いや、待てよ…。
お、お勧めの日本酒をください!