秋という季節が、言葉通りに秋と感じられるようになってきた。
珍しくアイツの方から呼び出され、土曜日だというのに馬車道に繰り出す。少しずつ辺りが暗くなり出す時間。向かいからやってくる車のヘッドライトが、ちらほらと灯し始められる夕刻。馬車道の交差点から、大好きな風景に身を投じながら、待ち合わせの店を探す。
どうしても連れていきたい店がある。
秋という季節がそうさせるのか、関内の街に慣れたせいなのか…。アイツが先に店に行って待っているというのは、極めて珍しく、雨でも降るんじゃないかと冷や冷やさせられてしまうほどだ。
こんな場所にそんな店があっただろうか?
アイツから連絡があった時には、直ぐにはピンとこなかった。ただ確かに、交差点から馬車道を歩き、ビジネスホテルの建物の手前を小道に入れとだけ言っている。
此処だな…。
そういえば、この小道に入るのは初めてだな。街灯の灯る馬車道の風景に自分の姿を入れて歩くのが好きで、なかなか脇道にそれられないでいる癖のせいだ。こんな雰囲気の良い場所なら、もっと早くに来ても良いはずだったかもな。
アイツから店を決め、そして先に店で待っていられるという店。
そのことに気になると同時に、こんなお店がこの関内にあったということに驚きだ。アイツにしては、感じの良さそうなところを見つけたもんだと、初めて入るこの店の面持に、少々うっとりと見とれてしまう。
さて…。
アイツはもう来ているのだろうか。
馬車道の街のムードとこの店の外観に、すっかりとうっとりしてしまったが、そろそろ喉は潤いを欲し始めている。店で待ち合わせという、極めて珍しい夜の始まりに気の利いた台詞が見つからないが、待たせると悪いから、サッと店に入ってしまおう。
ほぉ…。
可愛らしいサイズのテーブルが置かれた小上がりが2席。
気取らない丸みの帯びたちゃぶ台が可愛いじゃないか…。
ほぉう…。
几帳面に並べられたお箸がさり気ない、カウンターも良い色の木の温もりを感じる。
このカウンターで、チビリと日本酒をすするってのも、粋なやり方かも知れないな…。