そんな不思議な偶然も、このマスターの演出なんだろう。いや、この店の持つ不思議な空間が、それを運んで来てくれたのかもな…。
ゆっくりとグラスを持ち上げ、赤と白の2色を優しくステアし始める。
可憐な手つきで、二層の液体が一つに混ざり、そしてそれがグレープジュースのように、しっかりと葡萄の味を感じさせてくれるアメリカンレモネードに変貌する。
その味を確認するかのように一口飲んだ後、運ばれて来たばかりで、湯気がしっかりと立ち上るオムライスに伸びる美しい手。
…
ふぅ~
これはまるで魔法にかけられたようだ。
きっと桜木町で電車をおろし、あの歩道橋に連れて行かれたことすらも、このゆっくりとした心地の良い時間を過ごさせるためにかけられた魔法。
最高に綺麗な女性に出迎えられ、この時間に足を踏み入れ、正しく角を揃えるようにたたまれたハンカチのような所作に惚れる。間接照明だけのセピア色の空間は、全てが計算しつくされた物語の様に、間違いの無い心地良さを演出してくれる…。
ん?こだわり?
それは一つ一つに手を抜かないことかな…。
メニューにつけられた冠のように、本当にとろとろになった卵にくるまれたオムライスを頬張り、マスターが言った「手を抜かないこと」という仕事が、間違いではないことを確認すると、嬉しくなって胃袋から本当の微笑みが作られる。
やっぱり見つけちまったな…。
もしかしたら、この綺麗な女性も、マスターが最高の心地よさを感じさせてくれるための魔法だったのだろうか?
あのマスターを見ていると、本当にそんなことまで緻密に計算してしまうのだろうと、そんな気持ちにさせてくれる…。