秋という季節が、食べ歩き意欲を掻き立ててくれる。
心地良いタイミングで陽が落ち、心地良いタイミングから美味しい食事を摂れるこの季節。無性に美味しい物に出会いたくなり、仕事に集中することができない。
一度、そっちに向いてしまった意識を無理やりに戻しても、どのみち効率良く仕事にならないと理解できれば、することはただ一つ。
そう、アイツにメールすることだ。
食事でもどうだ?
こんな日は、ゆっくりと時間をかけお店を吟味する。幸い陽が落ちるのが早くなり、夜が長くなっている季節。心地良い横浜の海の風を感じながら、ゆっくりと街を歩き、店探しをすることが許される季節も嬉しい。
関内に着くのにもう少し時間がかかるというアイツからの返事も、普段ならイライラ感を募らせるだろうに、この季節が寛大な気持ちにさせてくれる。
待っている時間は好きではないが、店との出会いを求めフラフラと歩く時間は大好きだ。
仕事の都合でみなとみらい線で来るというので、日本大通り駅で降りるように伝えていた。ベイスターズ通りを歩き、待ち合わせの駅の出口に向かう時に、ふと見上げた秋の空の手前に気になる輝きを見つける。
はて?
気分が良いから空を見上げる気にさせられたのか…。それとも、この灯りがこちらを向くようにと上を向かせたのか…。
ビビッときたこの感覚は、間違いの無い当たりを引かせてくれる冴えた直感。
ベイスターズ通りと南仲通りの交差点の角を曲がり、直感に赴くまま足を進めると、冴えた意識が更に正しかったと感じさせてくれる、その店の入口を見つけることができる。
ほぅほぅ
入口にまでも、力を入れて雰囲気作りをしている。手を抜かないこだわりを感じる店は、間違いない当たりだろう。いや…。これまでの食べ歩きのデータベースを瞬時に開き思い返したとしても、この雰囲気とさっき感じた直感は当たりだな。
よし、行ってみるか…。
そう思い、一目散に店の入口をくぐりかけた時に、忘れていたある事を思い出させてくれる電話のベル。
おぉっと、そうだった。
駅の出口で待ち合わせしていたアイツのことを、すっかり忘れてしまっていた。
みなとみらい線の日本大通り駅に着いたというアイツに、ジャックの塔を目印に南仲通りまでの道のりを指示して到着を待つ。道を間違えずに来ることができれば、駅からは3分程度で着くはずの距離。
早くこのこだわりの続きが見たいと、逸る気持ちを抑えるのがやっと。その3分が長く感じるほど、ビビッと来た感覚がムズムズと足を動かそうとする。
グングンと押し寄せてくるこだわりの嵐。
吸い込まれるように一気に駆け上がりたくなってしまう、階段アプローチの装飾。
アイツは、まだか…。