横浜のみなとみらい地区に隣接する新港エリアに現れる、地上5階建ての四角い無機質な建物。レンガ造りの茶色い建物がなじみすぎるほど景色にとけこんでいる。まさか麺の色?
いや、頑張って建物から何かを連想しようとするよりも、素直に「博物館」ととらえるのに適した外観。さあ、どんな展示物が待っているのか、わくわくしてきました。
エントランスから建物へと入館。ぱっと目の前に広がる解放的な空間は圧巻。5階建ての建物が天井まで吹き抜け、オブジェもない飾りもない広間に「いらっしゃい」とでもいいたげに、大きな階段が迎え入れてくれました。
この博物館たる堂々とした姿の総合プロデュースはクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏によるもの。
ミュージアムのロゴも、佐藤可士和氏がカップヌードルのパッケージデザインからインスピレーションを得て「!」マークを3つ重ねたそうです。発明や発見の楽しさ、食の大切さ、夢を持って自分で考えることの楽しさまで、様々な「!」との出会いがこのミュージアムにあるとの願いが込められています。
ミュージアムは2階フロアからスタート。
赤く四角い“門”のような短いトンネルをくぐるとそこは、インスタントラーメンヒストリーキューブ。世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」の誕生から、蕎麦、カレー味、和風チキン…とラインナップは増え、歴代のインスタントラーメンのパッケージが3,000点以上並んでいます。
現在私たちもよく知る「日清焼きそばU.F.O.」や「日清どん兵衛」、数えきれないほどのアイテム数へと成長を遂げています。
その勢いは日本国内のみならず世界へも進出。現地の食文化に適応させるため、麺の長さを変えたり、宗教の教えに則ったハラル食品も開発されるなど工夫を凝らしています。
また、フィリピンでは1日約6食というのが通常の食習慣となっており、1回の食事の量が少ないので、写真左のフィリピンで売られている青いカップヌードルは、写真右のインドで流通されているサイズよりも小さい仕様になっています。
ちょっとした配慮を施すことで、多くの人がその商品を手に取ることになるのですね。
続く百福シアターでは、世界初の発明となったインスタントラーメンと開発者の足跡を映像で鑑賞します。
1958年、東京タワーが建てられた年、チキンラーメンは大阪で産声をあげました。
世界に先駆けた発明となる、インスタントラーメン生みの親は、ベンチャー精神に旺盛だった安藤百福(あんどうももふく)というひとりの男性。それまでに数々の事業を手掛け、成功を手にしたにもかかわらず、突然事業に失敗し全財産を失うという事態に陥ってしまいます。
しかし、無一文から這い上がるため自らを奮い立たせ着手したのは、戦後の傷がまだ癒えない、必死に復興をめざす庶民を支える食にかかわる事業でした。
「特別な設備はなくてもアイデアがあれば、世界的な発明が生み出せる」というメッセージが込められた百福の研究小屋。
実際に百福がインスタントラーメンを開発するために使用したのは、自宅裏庭に設えた質素な小屋でした。当時のありふれた調理道具、調味料などを使用していた様子が忠実に再現され、壁に掛けられたカレンダーはチキンラーメンが発売された1958年となっています。
安藤百福の生涯には、あふれる好奇心と「クリエイティブシンキング=創造的思考」という大きな柱があり、大胆なアイデアを実現するための原動力となっていました。
安藤百福のクリエイティブシンキングの発想には原点となる6つのキーワードがあり、それぞれが来場者の五感に訴え表現された展示が続きます。
- まだ無いものを見つける
- なんでもヒントにする
- アイデアを育てる
- タテ・ヨコ・ナナメから見る
- 常識にとらわれない
- あきらめない
そのひとつ、「まだ無いものを見つける」というキーワードには、「世の中にはまだ無いが、『あったらいいな』というものを探す!」という発明・発見のヒントがあります。
例えば「毎日の洗濯、手作業だから時間がかかるし、手も荒れる。誰か替わりにやってくれたらいいのになぁ」という背景から生まれた洗濯機。それまで費やされていた膨大な時間は、主婦にとって趣味や自分磨きに使われるようになったことでしょう。
「お湯さえあればいつでもどこでも食べられるラーメンがあったらいいなぁ」というヒントから、百福はインスタントラーメンを発明し、日本はもちろんアジア、欧米、アフリカにいたる国々の食文化に貢献しています。
百福がチキンラーメンを開発したのは48歳。インスタントラーメンが発展するうえで、粗悪な類似品に悩んだ時の解決策や、どんぶりのない国の食文化に馴染むスタイルにするために開発されたカップヌードルの誕生には、百福のクリエイティブシンキングが原点となっています。
全長約58mのパノラマの安藤百福ヒストリーには百福生涯の歩みとインスタントラーメンの開発ストーリーがイラストや写真で紹介され、クリエイティブシンキングの発想が視覚化され、遊びながら楽しむことができます。