久しぶりに一人で繰り出す夜だな。
この数日、誰かを連れて食事に出ることが多かったが、ようやく自由な夜が持てた。
こういう時は、
何か新しい店を見つけたい気分だ。
その心づもりを確認するように、JR関内駅の南口から市庁舎を抜け、ベイスターズ通りに足が向かう。5月の連休が明けてから、日が落ちると夜風が清々しく感じられようになった。そんな風に吹かれながらこの街をゆっくりと歩いてもいたいが、昼から仕事の打ち合わせが立て続いたおかげで、喉は乾いているし腹も減っていた。
何が良いか…。
気分は「ゆっくりと街を歩く」ではなく、『とっとと店に入る』に変わる。
しかも良い店。
胃袋でも脳でもない、気分の欲求に、さっさと店を見つけなくては…。関内の街を飲むようになり半年近くにもなると、どうやら鼻が効くようになったらしい。胃袋に任せて足を動かすとろくなことが無いが、気分に足を向けてやると、きっといい店が見つかるはずだ。
誰にでもなく、自分自身に言い聞かせていると、足はベイスターズ通りに入って直ぐにあるラーメン屋を左に折れた。
ほー。
薄暗い路地裏に迷い込んでしまったかのような店構えだ。周りの建物が光らせる灯りに、負けることなく雰囲気を作りだしているこういった店が、きっとこんな気分の夜に当たりを引かせてくれるだろう。
空腹に暴挙と化す胃袋の虫でも、理性的にただ食べたいものを探し当てる脳の指令でもなく、ゆっくりと心地の良い夜風に当たり、久しぶりの一人の夜を楽しみたいと感じている気分に任せてみるか。
Bar Outlaw
ただ唯一蛍光灯の白い灯りでともされる外の看板に、Barという文字を見つけたところで胃袋の虫も少し騒ぎ始めた。
腹は減っていないのか?
確かに食事を摂るのに良い時間。しかし、気分は路地裏に迷い込み、全身の肌から温かいものに触れたい気分でもある。
胃袋と気分の間で葛藤の念が沸き起こったが、感じよく薄暗い店の趣と、その店の名前が必ず気分も胃袋も満たしてくれると信じ、そっと扉を開けた。
ほー。
ベイスターズ通りに近い常盤町なのに、まるで馬車道にでも迷い込んだ気になるな。
レンガ造りにシックな木のテーブル。壁には格子の木枠の窓が、アクセントとしてこの雰囲気を強くしている。
店内を照らす照明は、馬車道のガス灯がモチーフか。