2017年5月23日

具材で溢れたおでん鍋が紡ぎだす、ぐでんぐでんという真夜中の社交場

大谷 幸一 大谷 幸一

毎日毎日、自宅から会社まで満員電車で通勤して、バタバタと仕事をこなし、仕事が終われば同僚と会社の近所で一杯飲んで自宅に戻る。たまには、こんな日常から抜け出して、自分自身の感性を刺激する真夜中の社交場という新しい世界へと冒険してみるのはいかがだろうか?

仕事で疲れきったサラリーマンが日常を抜け出す冒険へ!

ゴールデンウイークの連休も明けた初夏の平日。休み中に溜まってしまった仕事をテキパキと処理して定時に仕事を終えた俺は、同僚からの「いつもの居酒屋で一杯どう!」などという誘いを断り、非日常的な体験を求めて一人で“ある場所”へ出かけることにした。

ぐでんぐでんのおでん“ある場所”とは、京急黄金町駅から徒歩10分ほどの大岡川沿いの若葉町エリア。

関内に住む友人からの「30年以上の歴史がある個性的なおでん屋さんがあるよ!」という情報を頼りに、勤務先のある都内から品川経由で黄金町駅に降り立ったのは午後7時を回っていた。

大岡川に沿って暗い夜道を歩き、末吉橋を過ぎてからイセザキ・モール方面に右に曲がると遠くに赤い提灯が見えてくる。

暗い街並みに少し怖さを感じていた俺は、ほのかに光る赤提灯の明かりで「ホッ」と一安心していた。

おでんの店「ぐでんぐでん」に潜入

しかし、お店の前まで来て、急に怖気付く俺がいた。それは、このお店から発散される強いオーラのためだったのだろうか…。

ぐでんぐでんのおでん雑然とした周囲の環境とは裏腹に、この店の玄関だけがなぜか、‘凛’とした空気がただよっていたのだ。

掃除の行き届いた敷石。古いけれど、綺麗に揃えられた縄のれん。それらはまるで、京都の祇園にありそうな店構えのよう。

「一見さんでは入れないのかも?」

しかし都内から、わざわざここまで来たんだ。勇気を出し、扉を開けて中を覗いてみよう。

カウンターには、店長らしき寡黙な男性がひとり。そしてカウンターには、素敵な大人のカップルが静かにお酒を酌み交わしていた。

うわずった声色で「一人だけど、いいかな?」と訪ねた俺に、店長らしき男性は静かに奥のカウンターを指差し招き入れてくれる。入店を断れるかとも思っていた俺は、一先ずカウンターに座ることはできた。

ぐでんぐでんの店内

席に座って店内を見回すと、俺が座ったL字型のカウンターには8人ほどが座れそうだ。そしてその後ろに、2人掛けのテーブルが2席、入口脇には4人~5人が座れそうなテーブルが1席という感じだった。

一人で来たり、カップルで来たり、または仲間と来たとしても座れるだろう座席のレイアウト。

そして驚いたのは、玄関同様、店内の至るところがピカピカに磨き上げられているということ。古いお店でありながら、その清潔感に感激する。

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そこに、常連さんらしき二人の男性客が登場し、慣れた感じでビールを注文。

どうやら店長らしき男性は、このお店のオーナーのようで“親父さん”と親しみを込めて呼ばれているようだ。親父さんは、その客が注文した、しらたきたまごをお玉杓子で器用に取り分けながら、その客と楽しそうに雑談をしている。

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まずは、飲み物を注文

さて、俺も幾分気持ちが落ち着いてきたから、カウンターの上のおでん鍋にビッシリ並んだ具を吟味しようか…。でも、どれもこれもが魅力的で迷ってしまう。

まずは、おでんの前にお酒を決めるとしよう!

俺も思い切って、“親父さん”と呼んでみる。初めての店では、一番緊張する瞬間かも知れない。「もし無視されたらどうしよう」、常連さんに「バカにされないかな?」などと、考えてしまうからだ。


「親父さん、おでんに合うお酒は何がいいかな?」


ぐでんぐでんのおでん親父さんは、俺の目を見つめて一瞬考えたあと、

「やはり日本酒かな。これなんかいい感じだよ」と、真澄の一升瓶を出してカウンターの上にドンと置いた。

その仕草が、自然で何とも格好良い。真澄は、信州諏訪の宮坂醸造の純米酒。とても爽やかな味で、和風の家庭料理にも合うとのこと。

流石、親父さんのチョイスは的確だった。

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いよいよ「おでん」を注文する時がきた!

ぐでんぐでんのおでん

真澄を飲みながら、いよいよおでんを注文してみることにする。店で一番人気のおでん種は大根だと親父さんが教えてくれたので、まずは大根はんぺんを注文。

定位置に置かれた小ぶりのお皿に、手際よく盛り付けてカウンター越し提供してくれる。

大根は固くもなく、柔らかすぎず、口の中でとろけて甘い香りがひろがった。普通、おでんは辛子をつけて食べるが、この大根は素材の味だけで満足してしまい、俺は辛子をつけようとはしなかった。

はんぺんは、おでんの出汁が効いていて、これもまた辛子要らず。何だかおでんの奥深さを、初めて知ったような気分になってきた。

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俺も少し余裕が出てきたようで、おでん鍋の横にある寸胴が気になってくる。

使い古されたその鍋の中には、いったい何が入っているのか?

そこで、親父さんに聞いてみた。すると親父さんは、嬉しそうに顔をほころばせて話を始めた。

ぐでんぐでんのおでん

「この中で、さっき食べた大根を下茹でしているんだよ。この寸胴鍋は30年以上使っているよ。寸胴鍋とは別に牛筋もお鍋で下茹している。ひと手間をかけることが秘訣かな」

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そうか!

下茹でしてから、おでん鍋に移して出汁の味をつけているから、味が濃くなりすぎず、あっさりしているのに、大根の硬さがとれているんだ…と、ひとり納得するとともに、お店が30年以上続いている秘訣が、このあたりにもあるような気がしてきた。

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やっとメニューを見る余裕もでてきた。へ~、おにぎりやお茶漬けも充実している。

ふと気がつくと、真澄をコップで飲み、おでんを食べている自分が、何だかこの店に馴染んでいるように感じて自己満足。

そこで、思い切って隣の常連さんに話しかけてみる。

「このお店には、よくいらっしゃるのですか?」

すると常連さんは、ビールの手を止めて丁寧に答えてくれる。

ぐでんぐでんのおでん「いつも来る時は、ぐでんぐでんに酔ってるんですよね(笑 この近所のバーを2、3軒はしごしてから来るから、午前1時とか2時。『お父さん』は、多少酔っていても受けいれてくれるから嬉しいです(笑」

と言って、親父さんと目を合わせて笑っている。

羨ましい。このお店で、こんなに常連感を醸し出せるなんて…!

「そうそう、いつもはあの席に座るんです。さっき、カップルが座っていた角の席。あの席は、とても落ち着きますよ。」

俺は席を立って、カウンターの角に廻ってみた。

なるほど、親父さんの無駄の無い動きがよく見える。そして丁寧に洗われ、磨き上げられたコップも見える。

店の玄関で感じた‘凛とした空気’が、厨房にも見て取れる。

その空気感が、この常連さんには居心地の良い場所なんだろう。優しい常連さんにお礼を言って、自分の席に戻る。

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親父さんとの会話が、楽しくなってきた!

さて、次は何を注文するべきか、親父さんに聞いてみよう。


「横浜らしい種ならシュウマイかな。それから、つまみ揚げ。これは、ピリ辛のさつま揚げみたいなものだよ」


もちろん、その2品を即注文。

シュウマイは、いつものシュウマイの味におでんの出汁が染み込んで、なんとも言えないコクのある味。

そしてつまみ揚げは、親父さんが言う通りピリッと辛い刺激のあるさつま揚げのよう。

どちらも初体験の味で、俺は感動してしまった。

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店名の由来

二杯目の真澄を注文した時、ふと頭をよぎった疑問がある。

店名の‘ぐでんぐでん’の由来は、もしかしたら俺の好きな萩原健一の名曲『ぐでんぐでん』からとったものなのかも?

率直に、親父さんに聞いてみる。

ぐでんぐでんのおでんそうだね。

それもあるけど、屋号に「ん」の字が入ると縁起が良いと聞いたので、それが二つあればもっといいかなぁと思ってね。

それに、酔っ払いが好きなんだよね。

昔は、朝の6時くらいまで営業していたから、グデングデンになった酔っ払いの人とか、店が終わった水商売の人が、たくさん来てくれるといいなと思って名付けたんだよね。

なるほど、さらに‘おでん’の「でん」と、酔っ払いのグデングデンにもイメージが通じるようだし。改めて、とてもいい名前だな~関心。

でも最近は、深夜のお客様は少なくなったとか。親父さんは、そう言った時に少しだけ寂しそうな表情になった。

親父さんは、話をしながらも次々に仕事を片付けていく。

おでん鍋のつゆの量を調整したり、シュウマイに竹串を丁寧に刺して下準備をしたりと、俺としゃべりながらも手は素早く動いている。

これぞ職人。

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親父さんとの話が盛り上がってきたので、もしかしたら、「邪道だよ!」と叱られるのを覚悟で、前に他のおでん屋で飲んだことのある‘焼酎のおでん出汁割り’についての意見聞いてみた。

「それ、知っているよ。うちのお客さんでも時々、焼酎を出汁で割ってくれ、という人いるよ」

「そういう場合は、作ってあげるんですか?」と、俺。

「メニューにはないけど、頼まれれば出しますよ。それに、おでんの出汁にはおでんの成分が染み込んでいるから、‘つ・ま・み’要らずだよ。(大笑)」

ぐでんぐでんのおでん

「おでんの食べ方は、お客さまによって色々あるよ。例えば玉子を細かく潰して食べる人とかね。お客さんにも、それぞれコダワリがあるんだよね!」

会話が弾んできたところで、親父さんから逆に質問が飛んでくる。

「おでんが世界的にも、優れている点ってわかる?」

突然の質問に「わからない」と答えると、親父さんは真顔でこう言った。

おでんは、世界最高のファースト・フードなんだよ。おでん鍋に、きちんと具材を用意しておけば、お客様から注文があったら、お玉杓子で掬ってすぐに提供できる。

お寿司だって握る時間がかかるでしょ。おでんは握らなくていいから待ち時間無しの究極のファースト・フードだよ。

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と最後には、大笑いしながら語ってくれた。

親父さんは、ユーモアのセンスも抜群。寡黙で職人気質の凛とした外見とは裏腹に、とっても優しく、客に対しても気を使う人物だった。

ぐでんぐでんのおでん

親父さんのこだわりは、常に具材で溢れた「おでん鍋」

楽しく親父さんと喋っていると、隣の常連さんが話しかけてきた。

「『お父さん』のコダワリは、お店が閉店になるギリギリまでおでん鍋を具材でいっぱいにしておくことなんですよ。最後のお客様にも、すべてのおでん種を提供できるようにとね」

ぐでんぐでんのおでん

さすが、常連。

このお店が30年以上、この地で人々から愛され、親しまれて繁盛している理由がわかったような気がした。

それからしばらく色々とお話を伺ったところ、この常連さんは、あるバーテンダーさんにこのお店を紹介されてから来るようになり、気が付いたら常連になっていたとのこと。

因みに、そのバーテンダーさんは、親父さんの息子さんだそう。だから、この常連さんは親父さんのことを『お父さん』と呼んでいたんだと、この時に気が付いた。

関内の街は、お酒とコダワリを通して人と人とが繋がっていく、独特の空気感があって羨ましい!

親父さんが「夏」のおでんについて語る

さて親父さんとも、常連さんとも大いに盛り上がったので、そろそろ引きあげようと思っていたら、親父さんからこれからの季節に向けての提案があった。

おでんって、冬の料理のように感じているでしょ

でも、夏の暑い日にクーラーの効いたお店で、熱々のおでんを食べながら飲むビールも最高だよ。

だって、ビーチの海の家の人気フードもおでんでしょ!

確かにそうだ。

おでんというと、冬のイメージがあるけど、‘夏のおでん’も何だか新しい感覚で良い感じ。

今年は、‘夏のおでん’の魅力を友人に広めてみようかな。

非日常への冒険を終えて…

ぐでんぐでんのおでん今夜は、思いきって日常生活から飛び出し、会社帰りに関内までおでんを食べに来た。

‘ぐでんぐでん’で、コダワリのおでんを堪能し、親父さんの奥深い人柄に触れたことや、気の良い地元の常連さんと親しくなれたりと、とても充実した時間を持つことができた。

俺の小さい冒険は、大成功!

親父さん、ありがとう!

常連になりたいと思うお店が、またひとつ増えてしまいました。

ショップデータ

おでんの店 ぐでんぐでん
  • 横浜市中区若葉町3-54
  • TEL:045-252-3625
  • 営業時間:18:00~3:00
  • 定休日:水曜


この記事の著者

大谷 幸一

大谷 幸一デスク

昼はうだつの上がらない中年サラリーマン。しかし、ひとたび編集長からの特命が下ると、どんな難しい取材にも果敢に挑む熱血漢。こんな私を人は「関内新聞の仮面ライター」と呼んでいます。深い歴史があり、異国情緒漂う関内。この街の知られざる魅力をたくさん発見し社会に発信することが私の使命です。

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