何という美しく洗練された開放的な空間。品の良い照明の明るさと綺麗に設えられた茶色の濃い色と薄い色のコントラスト。そこに観葉植物の緑が、恥ずかしそうに主張するアクセント。
すっかりとコン詰めて四方八方に飛び回り、朝も昼も深夜もなく気が張っていると、こんな風に心を和ませてくれる空間が、非常に大切に思えてくる。
関内桜通りの老舗の洋食屋のある細い路地を入ると現れる、モダンな和のテイストを惜しみなく放つ大切にしたい店。
この街に来てから何度となく足を運び、何度となく酒に酔い、そして心までもホッと和ませてもらう時間を過ごしている店。
その店の名は、㐂樂(きらく)。喜んで楽しむという、何とも素敵な名がつけられたお店なのだ。
猛烈に仕事に没頭した夜には、一人しっぽりと長いカウンターに腰を下ろし、一日の振り返りを行うように酒を嗜んで帰るも良い。奥行きのあるカウンターいっぱいに旨いモンを並べて見つめてやれば、一日の鬱憤やストレスがまるで嘘のように吹っ飛んでいく。
それだけじゃぁない。
気の合った仲間や仕事の仲間との宴会にも、そして必ず決めたい接待の夜にも、この店の至れり尽くせりな雰囲気に何度となく助られている。
開放的な店の奥のスペースに整列したテーブル席は、大きな包容力と尽きることのない機動力で、小さな宴会から20人になろうかという大きな宴会であっても受け入れてくれる安心感。
だからこそ…
どんな時も忘れず気になり、そしていつもの様に気が付けば㐂樂(きらく)の扉を開けて、溢れんばかりの和みの解放感に身を委ねている。
そう、今宵の様に…
今夜は久しぶりの自由な夜。誰にも気兼ねなく、ゆっくりと男一人の夜を楽しむ会。
そんな時は㐂樂(きらく)のカウンター席だと相場が決まっている。この相場だけは、マイナス金利や急激な円高に左右される柔い物ではなく、一方通行に上がり続ける鉄板的なモノ。
丁度の良いサイズの取り皿に、箸置きを腰に巻いたお箸ちゃん。脱臭効果のある木炭が小さく添えられた灰皿までも、何も変わることなく出迎えてくれる。疲れた身体を無理に帰路につかせてたどり着いた玄関の先にいる、鬼の形相の細君様とは大違いに出迎えてくれる質感の良いメニュー。
今宵は、たっぷりと寛いだ物語の主役になり喜び、思う存分幸せのため息を吐く息がなくなるほどについてやろう。
ふぅぅ~
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突っ込む奴は誰もいないか…
どれ程の時間、目を瞑り、どれ程の時間、妄想を続けていたとしても、今宵は徹底的に一人を楽しむ夜だと決めて、この店、来たんです。出て行ったアイツのことなんて、まるで別の話だ。
…、とまぁ昭和から平成にかけてのお笑いコンビが、かつて紅白に出て歌った歌詞のフレーズを織り込んだとしても、突っ込む奴は今宵は居ない。(^▽^;)
さぁて
始めちゃうとしよう。
まず最初は、ビールと㐂樂(きらく)の代表的な看板メニューの豚の角煮ちゃんから。
一人には、ちょっと多いかな?と思える量。いやいや、ちょうど良いんじゃないかとも見える量。いやいやいや、食べ始めると必ず決まってもっと食べたいと足りなく感じてしまう量。
それは、その日の気分にもよるのだろうが、今宵は間違いなく一番最後の感情が現れるはず。
お箸ちゃんにすんなり身を許す柔らかいカラダ。優しくしなやかなその身体に程よく纏う甘みのある脂身。それだけでも既に虜になってしまうというのに、半熟の玉子にその風味を移して攻めてくる大胆な一面もあり、もうぞっこんレベルにまで押し寄せる色気。
何とも何とも、
最高じゃないか。豚のまろやかな甘みを口いっぱいに感じた後に流し込む、ビールの冷たさを繰り返せば、もう誰がいたとしても止むことのない妄想が、目を閉じただけで脳裏一杯に拡がる。
この豚の角煮ちゃんが、この店「㐂樂(きらく)」の代表的な看板娘…、いや看板メニューだということは、この店に一度でも足を運んだことがある客であれば知っているはず。
この余韻を延長…いや、お代わりしたいぐらいの出来具合の角煮。
が
押し寄せまくってくる。
妄想が止まらない今夜の次の一品は何?