中村さん:
そちらのカクテルは、当店オリジナルのレシピです。このお店の先代のオーナーから伝わるレシピで、ノルウェーのスピリッツ「アクアヴィット」をベースにしたカクテルですね。
アクアヴィットはジャガイモのリキュールで、それにグレープフルーツの果汁を合わせ、爽やかですっきりした味に仕上げています。あ、ただ少しアルコールが強いので、ゆっくり味わって飲んでくださいね。
どのくらいの時間を一人で過ごしたのかわからないが、唯一言えることは1杯目のいつものバーボンが、既に空いてしまっているということ。アイツが来るまで、チビチビリとやっているつもりが、時空を捻じ曲げられた空間で、一気にグラスを空けてしまったのか、それとも十分に時間を費やし、いつものペースで飲んでいたのかすらわからないが、グラスが空いているという事実に、次の杯を準備しなくてはならない。
ちょっと違うバーボンにするか。
そんな想いになったのは、時間の感覚をもとに戻したい気持ちになったから。
このまま、この店の徒ならぬ香に身を任せて、ただ本来の飲むという目的を追求してい行きたいところでもあるが、まだ確か外は明るさが残っているぐらいの時間。空にするバーボンのグラスの数を忘れないためにも、ここはいつものじゃないバーボンにしておこう。
少し早い時間から、ほんの少しアイツを待っているだけのつもりで選んで入ったこの店。
この店が入れてくれたスイッチが、既に2杯目のグラスに手を伸ばさせてくれた。そしてそれ以上に珍しいのは、アイツが食事を摂る前におつまみに手を伸ばしているということか。
アイツもこの店のマジックに、フィーリングがピタリと合ってきた証拠なのだろう。
んんっ?
まさかアイツがお代わりを頼んだのか?
普段はゆっくりと、こちらの半分のペースでグラスを空けるというアイツが、ここに着いた途端に2杯目をオーダーするなんて、何とも珍しいこともあるものだ。